恐怖の「金縛り」
「ある日の夜…ふと眠りから覚めるとノドを絞めつけられているような感覚が…
胸の上には圧迫感があり、目を開けると…
青白い顔をした女性がこちらをジッ…と見つめ首を絞めていた…
声が出せなくなり、体が動かなかった…」
と、体を動かそうとしてもまったく動かない。助けを求めようとしても声は出ない状態
「金縛り」
この「金縛り」科学で十分に解明されている…が…
「金縛り」とは?
金縛りは、専門的に「睡眠麻痺と入眠時幻覚」と呼ばれる現象のことをいう。
睡眠麻痺は、起きている状態から眠りに入るときに生じる一時的な全身の麻痺。
入眠時幻覚とは、眠りに入る際、本人としてはまだ起きていると感じるときに体験する鮮明な幻覚のこと。
この2つの現象が同時に起きるのが金縛りと言われている状態である。
金縛りの原因は特殊なレム睡眠
睡眠麻痺と入眠時幻覚は、特殊なレム睡眠のときに起きやすい。
レム睡眠とは比較的浅い眠りの状態のことをいい、脳は起きているときの状態に近い。
反対に、体の方は起きているときの状態とは大きく違って、ほとんど完全な脱力状態を示す。
レム睡眠の「レム」(REM)とは「急速な眼球運動」(Rapid Eye Movements)の略。
レム睡眠中には、起きている状態に近い速い眼球運動が起きることから名付けられた。
人は通常、起きている(覚醒)状態から眠りに入ると、比較的浅い眠りの睡眠段階1に落ちる。
そして次の睡眠段階2に移り、そこから深い眠りの睡眠段階3、睡眠段階4と落ちていく。
ここまでかかる時間は、1時間程度。
ここから寝返りを打ったりすることで、また眠りは浅くなっていき、1時間半ほど経つと最初のレム睡眠に入る。レム睡眠中の脳は起きている状態に近く、比較的活発に活動しているため、夢を見るのもこのときが多い。
睡眠のサイクル
通常、レム睡眠は眠りに入ってから1時間以上経って現れる。
ところが、通常の睡眠サイクルは、さまざまな要因により崩れてしまうことがある。
睡眠途中で一度起きて、再度、眠りに入った際に起きることもある。
この特殊なレム睡眠(入眠時レム睡眠)のときに起きやすいのが、睡眠麻痺と入眠時幻覚、つまり金縛りの状態である。
金縛りのときの脳はどうなっているのか?
金縛り(睡眠麻痺と入眠時幻覚)が起きたとき、脳は起きている状態に近い。
そのため、このときに見る入眠時幻覚は非常にリアルで、本人としては目が覚めた状態で体験したように感じることが多い。
しかし脳が起きている状態に近いとはいっても、起きているのか眠っているのかといったら、「眠っている」状態である。本人は目を開けて部屋の様子を見ていて、主観的には確かに起きていると感じても、客観的には「寝ているときに見た非常にリアルな夢」ということになる。
金縛りのときの体はどうなっているのか?
体は、レム睡眠中には、脳幹から脊髄へ向かって、脊髄の運動ニューロンを抑制する命令が送られているため脱力状態になっている。体はほとんど動かない。
これはレム睡眠中に夢を見ることと関係している。
もし夢を見ているときに体を自由に動かせてしまったら、その夢の中の行動に合わせて体が動いてしまう。歩いたり、走ったり、飛び降りたり、夢のとおりに動いてしまわないようになっている。
ちなみに、レム睡眠中は舌も力が抜ける。このとき仰向けに寝ていると、舌が気道に落ちてきて呼吸を邪魔することがあり、いびきや無呼吸の原因になる場合がある。
金縛りのときに胸の圧迫感や首を絞められたような息苦しさを感じることがあるのは、この舌の脱力状態が関係していると考えられている。
つまり、舌の落ち込みが原因による息苦しさをそのときの活動的な脳が夢に取り込み、リアルな幻覚をつくることで辻褄を合わせているということ。
人間の脳や体はよくできている…この世の一番の謎なのかもしれない…