滋賀県米原市にある上丹生は、 伝統の木彫りの技と紋様を今に伝える職人の街。
井尻彫刻所は、昭和10年に初代井尻翠雲が「翠雲彫(すいうんぼり)」として開業しました。彫刻の跡がわかるくらいの荒彫りが特徴です。
初代の頃からその技術力には定評があり、過去には
皇太子殿下への献上物を製作した経歴を持っています。
三代目・井尻一茂さんは彫ることが大好きで、集中すると周りが気にならなくなるくらい一生懸命ですが、話しをすると、気取らずとても気さくな方。
確かな彫刻の技術で、
大阪・難波グランド花月の芸人看板を担当するなど様々な活躍をされています。
今回はそんな井尻さんから「真に伝統を守ることとは」など、仕事に対する術を学んでいこうと思います!
木を削る音が心地よくて、彫刻の道に
井尻さんは大学でコンピューター関連について学んでいましたが、祖父が仕事を続けれるかわからなくなってきたため、家を継ぐことを決意。
「一度外に出たことは今につながっていると思いますが、ノミの音がバンバン聞こえている家で育ったので、その音の響きが心地良くて、彫刻やものづくりが好きだったので戻ってきたのかなと思います。」
彫刻をする際に使う道具は様々で、大きな木を彫る時は大きなノミ。細かいところを彫る時はとても小さな小刀など。
その道具は何十種類もあり、場所や彫るものによって瞬時にどれを使うか選び、使い分けます。
彫刻は、道具の手入れに一番手間がかかるそうで、手入れを怠ると良い彫刻が出来無いため、手入れも大切な彫刻技術です。
道具だけ、技術だけではいいものは作れず、
職人の長年の技術としっかり手入れされた道具、
両方があるからこそ良い物作りが出来るのです。
伝統の技術を現代に活かし、未来をつくる
井尻さんは伝統的産業の新しいものづくり、特に感性に訴えるような商品を目指して、「新しい祈りの形」を提案する「ナナ+(プラス)」というブランドを立ち上げています。
滋賀県は昔から仏壇づくりが盛んで、仏壇づくりの7つある行程に関わる職人が集まって作られた「ナナ+」。
しかし昔ながらの仏壇は現在の生活にあわなくなってきているのが実情で、7職の技術を受け継ぐためにも、
仏壇という概念を捨て、
現代のライフスタイルにあった新しい祈りの空間や時間を提案する商品を目指した商品開発を続けています。
従業員は20名程度で、若手は4人。ほとんど跡を継がれる方がいないのが現状です。上丹生の彫刻だけではなく、伝統工芸はどこも途絶えてきています。
「伝統を守ることも大事だけど、チャレンジをしていくこと、新しいことをしていかないと伝統自体がなくなってしまう。」
大切なのは「伝統を守る」ことではなく
「伝統を残す」ことだと語る井尻さん。
歴史ある伝統技術を守るのは大切ですが、それで生活が出来なくては廃れてしまいます。いつだって
やれること、出来ることを見つけてチャレンジしていくことこそが真に
「伝統を守る」ということなのかもしれません。
もっと自由な発想を
弟子入り体験授業として、学生さんにアイデアを考えてもらった時、最初は普通に仏壇のイメージでデッサンが出されました。
「僕らはそういうのを求めてないので、もっと学生らしい
とんでもないものを提案してほしい」と伝えたところ、神社の鳥居みたいなのとか、ガラスのお位牌とか、ポータブルタイプの手を合わせると合掌になる「HANDBOOK」などの斬新なアイデアが出てきたそうです。
「そういうとんでもないことを行ってくれると、おもしろいことになるのかなと思います。」
古い考えに囚われず、柔軟な発想を持つことがこれからの時代を生き抜いていくには必要な事。急成長しているベンチャー企業などはまさにそのような感じですね。
みなさんも常識に囚われず、新しいコトにチャレンジしてみませんか?