2014年、世界一に輝いたレストラン「noma」。東京にも出店し日本で大きな話題を呼びました。
そこで働く唯一の日本人シェフ『高橋淳一』さん。初めて食事したその場でオーナーに直訴し、シェフの座を勝ち取った衝撃的な料理人です。
二兎を追うものは三兎を得る
「世界一のレストラン」で働いて初めて思ったことは"もっと楽しく働いていいんだ!"ということ。
シェフの国籍を一つとっても、「noma」はデンマークのレストランですが、デンマーク人のオーナーシェフをはじめ、イギリス人、ベネズエラ人、フランス人、オランダ人など、かなり国際的で年齢も実力もバラバラ。
「それでも、相手が誰であろうと、人と会ったらまず握手して、
「どう?元気?」って気さくに話しかける。そういうことをみんなができるんです。」
職場はいつも本当にいい雰囲気で、仕込み中は厨房で音楽をかけながら調理するのは日常茶飯事、掃除の時なんかは大音量にしてみんなダンスしながら床を掃いたりするという。
「それに比べて、
日本では仕事を楽しいと思ってはならない空気がなんとなくありますよね。きっと他の多くの職場にも言えることだと思います。」
日本は「世界一自分の仕事が嫌いな国」と言われており、自分の仕事に対して不満や不平の声が多く上がっています。
きっと日本のレストランで音楽をかけながら掃除をすれば「真面目に掃除をしろ」と怒られるかもしれませんが、「楽しむ」ことと「真面目に」取り組むことは矛盾するものではありません。
仕事を楽しんではいけない理由は無いし、仕事を楽しいと思えなければ満足のいく仕事はできないのです。
「食べたい」から「働きたい」へ
大学受験勉強を始めた頃、高橋さんは「大学は違うな、でもまだ働くのも…」と思い、昔から料理が好きだったので、料理の専門学校へ進学。卒業後は10年間、都内のフレンチレストラン3軒で働いていました。
本で偶然「noma」を知り、写真だけじゃ料理の味がどうしても想像できず気になって仕方なくなり「これはもう食べに行くしかない!」とデンマークへ出発。
それまで味わったことない料理と、心から楽しそうに働くスタッフ。味も雰囲気も、すべてが新鮮で、「もっと知りたい!」と気持ちを抑えられず、
英語も話せないのに、その場で厨房に行ってオーナーシェフに直訴しにいったそうです。
「そしたら、『無給でいいなら半年間だけ研修に来ていいよ』って言ってくれたんです。」
実際に働いてみると料理自体はそんなに難しくなかったが、コミュニケーションが大変だったそうで。あえて悪い英語を使ってみたり、仕事終わりに飲みに誘ったり、溶け込もうととにかく必死だったとのこと。
日本との違いを一つ挙げるとしたら、「チーム」の考え方が違う
「日本だと、みんなで一つのチームなのにそれぞれ個人種目を戦っているような、仲間なのに仲間じゃない、そんな錯覚がありました。」
「noma」では、年齢も職歴も立場も関係なく、やれるならどんどんやっていいし、何でも意見できるという。
「料理が上手な人もいれば下手な人もいる。仕事が早い人がいれば遅い人もいる。一つのチームとして何かを作り上げるなら、
下手な人に対して怒ったり説教するんじゃなくて、教えてあげたり助けてあげればいい」
nomaだけではなく、デンマークのレストランでは
「足りない部分はみんなで補い合おう」という気持ちで働いている。
これはレストランに限らず通常の会社などでも同じで、仕事に対する考え方が日本とデンマークでは全然違うそうです。
他の仕事ができても上司の仕事は取れないし、どんなにいいアイディアがあっても上司には言えない。
仕事ができないと思われたら、見放されたり切り捨てられることもあるので、「いい仕事をする」より、
「上司から認められる」ことに必死になってしまう日本の職場環境では「真にいいもの」を作り上げるのは難しいのかもしれません。
「海外で仕事をすることはもちろん運もありますけど、強い信念を持っていればそんなに難しいことじゃありません。僕より才能のあるシェフは日本に山ほどいますし、僕だって最初は英語もまったく話せませんでしたから。」
と、最後は技術ではなく、ちょっとした勇気があればいいという高橋さん。
世界に通用するためにはどんな目標であれ、決意をもって踏み出すことが必要なのかもしれませんね。