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Movie Column動画制作テクニック

【徹底解剖】ストップモーション作品『ヴィランの館』

2025-12-05 21:00
フィギュアが魅せるダークな愛憎劇とストップモーションのテクニック

ストップモーションアニメーションは、SNSでもYouTubeでも強い人気を誇るジャンルです。
その理由は、実際のフィギュアを用いることで生まれる“リアルな質感”と、作り手の情熱が伝わる“手作り感のある世界観”です。

今回紹介するのは、INLIFE STUDIOにあるドールハウスコーナーで撮影したストップモーション作品──
YouTube公開シリーズ『ヴィランの館』の最新作「財布を狙う探索者と嫉妬の締め技」です。



本記事では、作品の魅力、登場キャラの描写、細部に宿るストップモーション技術の工夫、そして制作の裏側まで徹底的に掘り下げていきます。
ストップモーションの技術分析・セット制作・キャラクター演技の秘密まで、クリエイター視点で深掘りします。
ストップモーション制作をしている人も、観るだけの人も楽しめる“完全解説版”です。

■1.世界観と舞台設定
――ダークヒーローたちの「日常」を覗き見る快感

『ヴィランの館2』の舞台は、精巧に作り込まれたドールハウスセットを使用しています。
各部屋はヴィランたちの個性を反映したミニチュア空間になっており、リビング、寝室、階段、キャビネットなど、家具のひとつひとつまで細密に作られています。

それを利用した“のぞき見感覚”構造こそが、本作の没入感の面白さです。
観客はあたかもヴィランの秘密の私生活を見てしまっているような感覚に浸れます。


セットの作り込みは、ストップモーションの魅力を最大限に引き出し、フィギュアの演技に説得力を与えています。

■2.使用フィギュア/キャラクター
●スーサイド・スクワッド ジョーカー MAFEX アクションフィギュア 1/12

ベッドで大の字に寝ながら、「狂気が薄れてきた」とぼやくジョーカー。
寝ていても財布から札束がはみ出してしまうほどのだらしなさと豪胆さで、キャラ性を表現しています。

●スーサイド・スクワッド ハーレイ・クイン MAFEX アクションフィギュア) 1/12
椅子に座り雑誌を片手にジョーカーをあしらう姿や、ジョーカーの財布を狙う「探索者」を即座に撃退するシーンを通じて、
狂気の愛・嫉妬・戦闘能力が強い等、面白く表現しています。

●霧亥 PVC&ABS製 塗装済み 可動フィギュア 1/12
天井から逆さまに降りてきてジョーカーの財布を狙う黒ずくめのキャラクター。
「BLAME!」主人公の霧亥のフィギュアを使用し、高い可動域を活かしたアクロバティックな動きを再現しました。

ハーレイ・クインと霧亥のアクションフィギュアは、関節可動域が広いので後半では、その特徴を活かしキックや投げ技などアクションシーンを盛り込みました。

■3.物語のテーマ:「財布」を巡る愛と嫉妬劇
今回のテーマは、ハーレイが信じているのは、ジョーカーの財布=二人の愛の旅行資金という一点。

そこへ現れた財布泥棒(=探索者)
さらにハーレイの脳裏には、「このお金、浮気相手に使うんじゃないの…?」という疑念がよぎる構造になっています。
つまり、テーマは非常にシンプルに、愛・お金・嫉妬です。

この普遍的テーマをヴィランたちの世界観で描くことで、笑えるにコミカルな作品にしてみました。

■4.技術解析:ストップモーション
この作品を「ただのフィギュア動画」と一線を画す最大の要因がストップモーションにあります。
フィギュアの関節をミリ単位で調整しながら、アクションシーンは1コマ1コマ撮影しました。

・探索者が天井から逆さまに降りてくるシーン

・探索者が財布を狙うシーン

・ハーレイのブレーンバスター

・ハーレイのラリアットからのボディプレス


こうした“重力無視のアクロバット”は、熟練者でも難しい領域です。
不自然に見えないための“連続したポーズの設計”がクリエイターの腕の見せ所でもあります。

フィギュアの支えに使用したタンクなどは、後のレタッチ工程で完全消去しています。
この工程が一番時間がかかるので、今回は実は…

キャラクターの動きを支えるために あえて“手支え”を入れて撮影する手法を採用しました。
一般的にはタンクを完全に隠すためのレタッチ工程が必要だが、あえて“手支え”を入れることでレタッチ作業を最小限に抑えつつ、どこかコミカルで温度のある “人形劇的リアリティ”を生み出しています。
完璧に隠しすぎない“ほんの少しの不完全さ”が、逆に作品の世界観を強調する役割を果たすようにしています。
さらに、動画のフレームレートはあえて約10fpsに設定しています。
これは滑らかな動きではなく、わずかにカクついたストップモーション特有の“コマ撮り感”を意図的に残すためです。
10fpsのテンポはスピード感とレトロ感のバランスが良く、キャラクターの存在感を引き立ててくれます。


ストップモーションではコマ数を増やせば増やすほど動きが滑らかになるが、滑らかすぎるとデジタルアニメのような質感になってしまいます。
そこで本作ではコマ数をあえて増やしすぎない編集方針を採ることで、アナログ特有の“手で動かしている”質感、つまり ストップモーションの原点にある温もりを残すことに成功していると思います。

■5.セリフと効果音
ストップモーションは無声のままだと「ただの動いているフィギュア」でしかありません。
本作が生命を持つのは、声と効果音が完璧に同期しているから。

●セリフ
「ネット端末遺伝子…発見」「プディングちゃんの旅行資金よ!」
など、キャラの心情を反映したAIで作成した声を入れることでコミカルに表現してみました。

●SE(効果音)
バットのヒット音・着地音・衣擦れ・破壊音など
これらの音はリアルな感じに入れて、映像の質感が上がるようにしています。


■6.制作の裏側
数分の動画を制作するために必要な工程は以下。

脚本・構成・絵コンテ

ドールハウスセットの設計・調整

照明の最適化

数百枚に及ぶコマ撮り

タンク除去のレタッチ

VFX合成

音声生成・SE追加・ミックス


特にハーレイ・クインと霧亥の格闘シーンは、一コマのために数分〜数十分かかった作業です。
この手間の積み重ねこそが、あの演出とコミカルさを生み出す要素です。

■まとめ
『ヴィランの館2』は、趣味を超えた“アート作品”と言える思います。
・ダークヒーローたちの日常という魅力的な設定
・精巧なミニチュアセット
・フィギュアの可動域を使ったアクション
・VFX・SE
・ユーモラスでドラマ性のあるストーリー

これらを融合することで、“小さなフィギュアが大きな物語を語る”芸術表現が成立しています。

ストップモーションの魅力に触れたら、ぜひ他のシリーズ作品もチェックしてみてください。
ちなみに、ヴィランの館「誰とLINEしてるの?」もあります、面白いですよ。
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作り手のこだわりや情熱が伝わる作品は、創作意欲を刺激してくれますよね。