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人物&インタビュー > プロフェッショナルインタビュー > バッグ師/明石整峰
バッグ師/明石整峰
教師だった父への反発から実家を飛び出し、学生時代に覚えた彫金を路上で売っていた10代後半。そして本格的な革職人としての道を歩み出した20歳から時は経ち、今年で職人生活35周年目を迎えた、革博士こと明石整峰氏の半生を振り返る。革職人としての彼の哲学とは?
今回は、若かりし頃に抱えた苦悩と葛藤をバネに己の道を突き進む生粋の職人である明石氏にお話を聞かせていただいた。
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「結局いま思い返したら、ジェットコースターみたいな人生やった」
明石さんにとって20代・30代とはどういう時代でしたか?
「(20代は)髪の毛伸ばしたりアフロヘアーにしたり、イヤリングしてた。なんていうんやろ?自分をいろいろ試してみた。いまは髪の毛短かしたり、35年以上経ったらシンプルなんがええなとか。青春は僕にとっては結構失意の時代やったしね。それから30代に華咲いてきて、西部百貨店から直営店出さないかとか、東急ハンズの江坂店が出来た時には革製品の教室やってくれないかとか、色んな話がきてね。30代の時は、二晩ぐらい寝んでも仕事出来るんですよ、徹夜でね。だからがむしゃらに仕事しましたね。んでええ気になって、40代また苦しむと。結局いま思い返したら、ジェットコースターみたいな人生やった」


「長い時間かかっただけの熟成をしていく。それが職人」
もの作りに対しての姿勢。また子供心とは?
「(子供心は)基本です。それがなかったら物作りできないですよ。仕事ですからもちろん経済が裏づけにあるんですけど、作業に入っていくと、経済を忘れてたりしてますから。趣味の域になるんですよ。よく弟子に言うのは、『お客さんに研究費をもらってるようなもんなんやで。最初から儲けようなんて考えるな』って言いますね。職人もそうだし、ミュージシャンであったり、アーティストもそうだし、文学もそうだし、表現者は二通りしかないと思うんですよ。エリートか、叩き上げか。エリートはちゃんとした学校行って、血筋もいるし、脳みそもそれなりのものがいる。でもミュージシャンなんかでは、僕は叩き上げの人のほうがグッとくるんですよ。脳みそだけじゃなくて、体を通じて覚えていく。だから現場に強い。脳みそだけで学ばない。長い時間かかったら、長い時間かかっただけの熟成をしていく。それが職人じゃないですかね。うちに弟子が入門したいと言ってきたら、必ず最初に言うのは、『うちは全部しなあかんよ。料理も大工もさせるよ』って。全部一緒なんですよ。料理も鞄作るのも。素材を分かってなかったら作れないし。モノ作りは全てに通じることも多いですよ」

「ただ好きなだけでもプロとしてはやっていけない」
物を作る上で、もっとも大事なこととは?
「つきものは必ず失敗すること。教室もやってるんですけど、生徒さんは正しい答えを聞こうとする。正しい作り方や答えを教えると、その一つしか覚えない。手を動かす前に聞く人はあかん。その失敗がね、ずっとその人の教科書になる。失敗したら、解決策を考える。そこにはいくつもの方法があることに気付き、それが自分の引き出しになる」
その長いキャリアとして続けてこれた理由は?
「それはね、きわめて単純ですね。好きじゃないとできない。でも好きだけでも続かない。単純に僕は道具を握っているのが好きなんですよ。作業そのものが好きなんですよ。工作ですよね。“そのもの”が好きなんですよね。高校時代に彫金触ってて、途中で革素材に転向した時も全然違和感なかったし、仮に土に出会ってたら陶芸やってたかも知れへんし。母が洋裁やってましたし、ミシン踏んでるとか裁断してるとか、物作りしてる姿を後ろから見てましたから。大変やなと思ってても、吸い込まれていく。これは好きやとしか言いようがない。でもただ好きなだけでもプロとしてはやっていけない。意地ですね。”ええとこで意地張れよ”とはそこちゃうかな。しょうむないことで意地張るなと」


「60過ぎてからは、これしかせーへんになろうと。自分のしたいことをしようと思う」
35年間の革職人としての仕事の中で見つけた“しっくり”いくものとは?
「子牛の皮ですね。爬虫類とかああいうのは希少価値とかで、値段は高いんですけど。子牛の皮に包丁いれたときが一番気持ちいい。繊維が均一に緻密なんかな。子牛の皮が僕が触ってて一番楽しい」

仕入れは国内ですか?
「そうです。融通聞くから問屋ですわ。オーダーメイドでは何十枚もいらんしね。うちは定番の革いうのはやっていないんですよ。なんでもやらな、なんでもこなさなあかんというのが僕の心情なんですよ。“今”は全てをやってしまおう。出来へん鞄ないぞ!っていうところまでやってしまうと。60過ぎてからは、これしかせーへんになろうと。自分のしたいことをしようと思う」


「aging」
作品への向き合い方について聞かせてください
「俺の作ったものは、誰が見ても分かるっていうのが自分の自負なんですよ。ステッチにしても裁断の仕方にしても、革の裁断部分の仕上げも。だからワザワザ自分の名前とかマークをいれてない。商業的には入れたほうがいいよっ言われるんですよ。実際そうなんですけどね(笑)。でもそこにエネルギーを消費したくないからね」

作られたバッグが手元を離れ、使い古されて帰ってくる心境は?
「作った物は、使い痛みで3年後・5年後に里帰りしてくるんですよ。まぁ、大まかには二通りあります。くたくたになって、ぼろぼろになって帰ってくるバッグ。綺麗に使ってくれてるんでしょうね、さっき渡したばっかりやな〜言うぐらいに綺麗に使われてるバッグ。どっちも嬉しいんですよ。よ〜こんなクタクタに使こてくれてるな〜って嬉しさと、丁寧に使ってくれてるんやけど、力のかかる部分は痛んでんやろな〜って。どっちも感動しますよ。それと、お客さんに渡した時からお客さんの作品に変わるんですよ。“エージング(※1)”ってそういうことやと思うんですよ。僕は使うための道具を提供したわけで。そっからお客さんが使った時間が刻み込まれていく。革っていうのはね、使っている人が乗り移るというか、使っていく人の作品に変わってくる。だから嬉しいもんですよ、里帰りしてきたら。そういう意味ではいい仕事出来て幸せですよね」
※1.aging(エージング)=年をとること・加齢・熟成

「一つのことをずっと貫いていけば見えてくるもの」
職人生活35年目の悩み。そして今後の展望とは?
悩みは必ず解決でき 解決する方向へ努力すれば、いままでの経験上、(目標に)近づいていくことは明らかですから。いま一番やりたいのは教育なんですよ。親父譲りかも知れんけど。作り方なんかは横についてたら出来るようになる。自分の中で、何が出発点でモノに関わるんかっていう、気持ちの問題や心の問題を気付かせてあげたい。気付くような場を作ってあげられたらな。それにね、モノ作りは一種の“禅”やと思うんですよ。手縫いなんかしてる時は、静かに鼻で呼吸する、複式呼吸なんです。陶芸もそうなんです。すべて臍(へそ)の前でしろっていうんですよ。曲線は手先で切ったらダメ。体で切れっていうんですよ。自分をコンパスの中心にして、体で切れっていうんですよ。そういうことを伝えていきたい。まさに“軸”なんですよ。中心作りなんですよ。職人道そのもの。色々やってみるっていうのは、根であり、枝葉であり、それらが軸作りに役立つ。だから色んなことしなあかんよって。そして一つのことをずっと貫いていけば見えてくるものだと思うんですけどね」


■ 整峰バッグ工房
業 種 バッグ工房専門店
カテゴリ 【人物&インタビュー】 プロフェッショナルインタビュー
所在地 大阪市中央区南久宝寺町1-6-5
エリア その他の大阪市内
電話番号 06-6271-8239
営業時間 11:00〜19:00
交 通 地下鉄堺筋線「堺筋本町駅」より徒歩6分
H P http://www.bag-shokunin.com/
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